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「人に喜んでもらいたい」という気持ちを持つこと

一つ前のエントリ「アマゾン一位のノートパソコンは29,980円」の内容:

ハードよりもソフト,ソフトよりもサービスという進化。世界のマシン台数が伸びる程,GoogleFacebook等のネットサービス産業は伸びていくという仕掛け。ハードやソフトを作っても薄利多売で,利益は薄い。日本もサービス産業で外貨を稼げるとよいのだが。コンプリートガチャなる妙な世界じゃなくて。

Facebookに書いたら,「数学ガール」等の著者で有名な結城浩さんが下記のようなコメントを寄せて下さいました。

サービス産業で外貨を稼ぐには、日本の企業が「人に喜んでもらいたい」という気持ちを持たないと難しいかもしれませんね。

このコメントには,はっとさせられました。世界の人に受けいられる,グローバリゼーションに成功する核心的なポイント,世界の人々に喜んでもらえるか。思い出してみましょう。我々がこれはいいと喜んだもの。例えば,ソニーの初代ウォークマン,そしてCD。家庭用ビデオデッキ。任天堂ファミコン,ソニーのプレステ。今も世界で売れている安くて高品質の,自動車,カメラ。それら,世界で成功したものは,いずれも世界の人々に喜んでもらえるものでした。喜んでもらえるものが,受け入れられ,結果的に売れる,儲かるということになる。

コンピュータの世界で何かあるか?かつてのIBMメインフレーム互換機。同じ内容のものを「安く」作って,世界で広く売れました。知財がらみの事件が起きて,また,時代も変わって,今は昔の面影はありませんが。プログラミング言語Rubyが最近の成功例でしょう。これも,世界の中で,プログラミングをする人達に喜んでもらえた。

アップル製品を思い出しましょう。世界の人々を喜ばす数々のモノを世に送り出した。Macしかり,iPodしかり,iTunesしかり,iPhoneしかり。iPodが良い典型です。初期の製品はさして「ハイテク」ではありません。MD等を出していた当時のソニーに比べれば「ローテク」。著作権管理が弱かった。業界はiPodを白い目で見た。しかしユーザを喜ばせた。その結果どうなったかは,世界の人が知る通り。

人に喜んでもらいたいという,人間が素朴に持ち合わせる気持ちがとても重要だと思うのです。儲けたい-first,ではなくて。ビジネスモデルを早くから考えて,儲かるかどうかを先に考えて事業を起こすのではなくて。成功しているネットワークサービスもそう。Google, Twitter, Facebook。こんなのあったらいいよねから始まって,それが人々を喜ばせた。そして,人々の喜びに水を差さないようにビジネス化していく。そういう微妙なさじ加減を,注意深く継続させねばならない。

これを書きながら思い出しました。日本人の誰もが子供の時に聴いて知っている民話「こぶとりじいさん」。人ではなく,鬼を喜ばせていますけど。今回書いたこと,古くから知られることだったのですね。

結城さんとの更なる対話

上記内容を書いたと結城さんにお知らせしたら,次のような返信を頂きました。

うわわ、恐縮です。でも私の一言がきっかけでこんな素敵な文章が読めるなら光栄です。結城は、儲け主義も技術主導も結局はうまくいかないと思っています。いまふうにいえば「おもてなしの心」になると思うのですが、人を喜ばせたいと本気で思った人や企業が成功すると思っています。利益を出すことも、技術を磨くことも、そのどちらも人を喜ばせる手段にすぎないからです。そしてもう一歩踏み込んで考えると「幸福に生きるとはどういうことか?」につながっていくように思います。

結城さん,お褒め頂き光栄です。まったく仰るとおりだと思います。「幸福に生きるとはどういうことか」です。これまでに結城さんの本を何冊も拝見していて,そして,その結城さんが先のコメントを書かれたのを見て,はっとさせられた次第です。

おもてなしの心,お客さんに喜んでくれると自分も嬉しくなる心があって,そのために,技術なり,ビジネスなりがあるのでしょう。私,日頃から,近くの筑波実験植物園で沢山の植物,花を見ていますが,人間が観賞用に作り出した花もありますが,野生の花は,花粉を運んでくれる昆虫というユーザがいて,その昆虫を喜ばせるために花の色,形,構造,匂い,蜜など,さまざまな「おもてなし」をしている様子が感じ取れます。素晴らしい自然の神秘です。おそらく,「おもてなし」ができる種のみが生き延びた。人間社会の,料理や旅館等,サービス業という「おもてなし」の世界は言うに及ばず,IT世界のソフトや,サービス,いやもっと広く,モノ作りの世界,いや,社会全体がそうじゃないかと考え始めました。