Think Real

リアルに考えよう

情報科学者のためのテクニカルコミュニケーション

7月15日に筑波大学 総合研究棟Bにて,「情報科学者のためのテクニカルコミュニケーション」(主催:情報科学類)と題した講演会を開催致しました。今回は特にテクニカルライティングの分野でプロフェッショナルとしての活動をなさっている講師陣をお招き致しました。

一番手を飾ってくれたのは,日経BP社ITpro副編集長の高橋信頼さん。ITproの多くの記事で,氏の記事を読まれている方も多いと思います。高橋氏は情報学類(情報科学類の前身)のOBでもあります。私もこれまでに何回か取材して頂いて記事にして頂きました。
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この講演会シリーズの第1回はRubyをテーマにして開催致しましたが,高橋氏が取材し,記事にして下さいました:筑波大学シンポジウム「国際化するRuby」レポート:プログラミング言語へのこだわりが生んだ国際標準化と教育・産業への普及
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20130106/447742/

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高橋さんが強調なさっていたのは読まれるためにはタイトルがとても重要である事,分かりやすい表現であること,そして「伝わる文章」の条件。

今回の講演のために書き下ろして下さったスライドは,高橋さんがすでに下記で公開して下さっています。
http://www.slideshare.net/nobuyori/it-web-24668993

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次なる登場は,阿瀬はる美さん。TeX/LaTeXの日本語化された当時,日本語で書かれたTeX/LaTeXのドキュメントはほとんどありませんでした。その嚆矢となったのが,UNIXマガジン(アスキー刊)という月刊誌に連載された「てくてくTeX」という連載と,後にそれが単行本化されたもの。
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最近は,日本の技術書も大変に読みやすいものが増えてきましたが,長らく日本で出版されるコンピュータ関連の本や雑誌記事は専門知識なしに読めるものは少なかった。今日の,分かりやすい日本語IT技術解説本の祖先の一つが「てくてくTeX」ではないかと思っています。阿瀬さんは,アスキー社が販売していたPC用TeX/LaTeX添付のマニュアルも執筆したそうです。それから最近では,シスコ社のネットワークに関する多くのマニュアル翻訳や解説執筆に携わっています。

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御本人から,人前でプレゼンするのは,今回が3か4回目くらい伺いました。スライドはもちろん,今回のために書き下ろし。それなのに,破綻なく,場数を踏んだ講演者のような講演をなさるのはさすがでした。「プレゼンテーション」というものには,文書も口頭発表も,基本的な部分は共通するものがあるとかねがね思っていましたが,その通りでした。

阿瀬さんが大事だと言っていたこと三点。破綻のない文章を書くこと,リズムが大切であること,意味のない「が」をやめること。

なお阿瀬さんは,私の情報学類時代の同級生でもあります。学生時代から理解が早く,直観が鋭い,聡明な方でした。

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最後にトリを飾ってくれたのは自称「ソフトウェア芸人」の矢沢久雄さん。アマゾン等で検索するとすぐに分かりますが,IT技術解説関連で,数々のベストセラー書を出版なさっています。コンピュータ技術のプロであり,解説本執筆のプロであり,そして,しゃべりのプロです。この三拍子が揃った方は,世界的にも少ないと思われます。

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矢沢さんは雑誌やWeb上の記事でも多くの文章を発表なさっています。下記は,講演でも取り上げられていたITproの記事:
矢沢久雄 ソフトウェア芸人の部屋
「日本の名物コンピュータを訪ねて[1] 3500億円分の取引情報が詰まった巨大なWindowsマシン」→ http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Watcher/20060424/236141/

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矢沢さんは多くの人によって読まれる文章がいかにして産み出されるのか,その舞台裏を教えて下さいました。矢沢さん曰く,大切なのは編集者。編集者が,どういう道を歩んでいけばいいのか,「ダメ出し」という形でその方向を与えてくれるのだそうです。実例を交えてその様子を教えて下さいましたが,確かにすごい。プロの編集者とプロの著者がいかにコラボレーションをしているのかがわかりました。

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「ソフトウェア芸人」を自称するだけあって,矢沢さんのトークは凄いです。以前,米国の大きな国際会議の夜の余興で,ITに詳しい芸人らしき人が出てきて,1時間以上にわたって,観客が爆笑し続けるステージを見たことがありますが,あれに通じるものがあると思いました。日本のITも裾野が広がってきて,素晴らしいことになりそうな予感。

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最後に。皆さん,コンピュータとネットワークを使ったコミュニケーションも大変に結構ですが,人と人とのコミュニケーションもとても大切です。テクニカル・コミュニケーションの名手は,ヒューマン・コミュニケーションの名手でもある。そんなことを考えさせらた講演会でした。

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