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なぜ日本のスマホメーカは韓国メーカに勝てなかったのか?

なぜ日本のスマホメーカは韓国メーカに勝てなかったのか? これは私にとって大きな疑問でした。OSはグーグル社がアンドロイドをフリーで出してくれているから,ハードで勝負をすればよい。軽薄短小なハードウェア作りは日本は得意で,しかも,多機能すぎて,世界市場で売れなかったと言われた携帯電話(フィーチャーフォン,いわゆるガラケー)を沢山作る技術力があるのだから,多機能なスマホを作るのは得意のはずでなかったのか? それがどうして,世界市場をとれないのか?

下記の記事を読んでわかりました。

iPhone対抗は遠く…始まった日本メーカー外し(日本経済新聞,2012/9/19,今井拓司)

なぜ日本のスマホメーカは韓国メーカに勝てなかったのか? 迅速な意思決定・行動ができなかったからです。そして,沢山のメーカが沢山のスマホを作りすぎたからです。まとめると,迅速で集中的な経営資源(ヒト,モノ,カネ等)の投資ができなかったからです。

迅速で集中的な経営資源投資ができないとどうして世界で勝てないのか?沢山のメーカが勝つことはできない分野だからです。限られた数の会社しか勝つことができない分野。

どうして限られた数の会社しか勝つことができないか?

その理由の一つは,スマホの部品を数多くのメーカが獲得することができないからです。上記記事には,シャープや他の日本メーカが米クアルコム製の最新半導体部品の供給を十分に受けられなかったためにスマホ商品を製造できなかったことが紹介されています。韓国サムスン社に持って行かれたのです。

同日経の記事より引用:

クアルコムはシャープをはじめとする日本メーカーとサムスン電子のどちらを優先しているのか。誰が見ても状況は明らかだ。

基幹部品メーカーが世界シェアの高い海外の大手メーカーへの対応を優先し、国内メーカーを二の次にし始めた節がある。

ハードウェア部品だけではありません。スマホのタッチパネルで滑らかな動作を実現するためには,スマホOSの奥深くまで踏み込んだチューニングが必要です。サムスンは,半導体メーカやOS開発コミュニティに深く食い込み,共同開発やチューニングのための投資を深く,迅速にやり続けているのです。そこには,そこには多くの会社が入り込む余地はなく,スペースは限られています。だから日本メーカのように,沢山の会社で,沢山の機種を作ろうとするアプローチはそぐわないのです。

上記日経記事に下記のような一文が登場します。

「米国でのミーティングで日本メーカーと話したら、日本に持ち帰って検討すると言われた。同じ件で台湾メーカーは、その場で電話をかけて即決した」

私にとってはデジャヴでした。

実は液晶テレビでも

私は2004年に,外務省のドイツ交流プログラムで,ドイツ・ダルムシュタットを訪れた際,化学会社大手のメルク社で,日本人研究者Dr. Kazuaki Tarumiに会いました。メルク社は,液晶テレビに必要な,高速にスイッチングする液晶を世界に先駆けて作った会社で,その開発の中心人物がDr. Tarumiです。彼のこの開発は同国で高く評価され,ドイツで技術者に与えられる最高栄誉の賞を日本人として初めて2003年に受賞しています。その彼からこんなショッキングなことを言われました。

同胞として誠に残念ですが,日本の液晶テレビはいずれ韓国にやられます。なぜなら,つい先頃,韓国のある電機メーカーの人が当社に来て,韓国本社と電話で相談しながら即決で,当社の液晶を大量に買い付けていったからです。製造能力に限界があるので,これから日本のメーカが買いに来ても売ることができません。

2004年当時は,日本の液晶ディスプレィは絶好調で,私はまさかと思いました。

その後,多くの人がご存じのように,日本の液晶テレビはある時期まではうまくいきましたが,結局は,Dr. Tarumiの言う通りになりました。

現在のデジタル時代の製造業は,早く始め,速く作り,そして深くチューニングして作ることが大切です。そのためには,意思決定を迅速にし,経営資源を集中投下する必要があります。韓国のやり方はまさにそれにぴったりだったのです。

日本の携帯電話キャリアは,半年に1回位のペースで,大量にスマホの新モデルを出してきます。しかしそれらはおそらく,早く,速く,深くは作られていないのです。だから国内外でシェアをとれない。(たとえばこちらの記事参照)

もし日本がこの分野で戦略を立て直すとすれば,早く,速く,深く作る体制を構築するしかないと感じています。