Think Real

リアルに考えよう

日本発&初のプログラミング言語Rubyの国際標準化

IT業界の多くの人は知っているが,それ以外の人の多くは知らないかもしれない,日本発の素晴らしいソフトウェアがあります。プログラミング言語Ruby。プログラミング言語は「文化」を伴うので,日本で設計・実現されたプログラミング言語が世界の人々に使われるのはとても難しいことだと考えられてきました。その壁を打ち破り,世界の人が喜んで使ってくれるプログラミング言語が現れたのです。

この言語は,世界で広く使われています。例えばTwitterの初期バージョンはRubyで作られました。Rubyの英語解説書(一例)も数多く出版されています。

そしてこの度,独立行政法人 情報処理推進機構(IPA,経産省所管)のサポートで,ISOという国際標準が制定されました。国際標準化作りは,世界の多くの国の人が関わり,一般に多大なる時間を要するのですが,今回は関係者の尽力もあってか,最短期間に近いスピードで国際標準化することに成功したとのことです。日本発のプログラミング言語のISO化はこれが史上初という快挙です。

これを記念して,6月5日に学術総合センター(東京)でRuby国際標準化報告会というシンポジウムが開催され,私も出席してきました。

当日は多くのプレス関係者もいらしていて,既に記事になっています。下記のその一例です。
「膨らむ可能性と期待」、Ruby国際標準化報告イベント開催 (ITpro,6月5日)

なぜRubyを標準化するのか

まつもとさんの講演から。Rubyを標準化する意義は何か。心理的効果。公共調達に光明。ビジネス上有利(「ISO規格があるんですよ」)。日本人が設計・開発したプログラミング言語の世界標準が初めて制定され,素直に嬉しい。

さて,技術的にもあるか? ありました。

Rubyの処理系で最も多く使われているのはCRuby。通常Ruby実装というとこれを指すことが多い。しかし,これ以外に世界でいろいろなRuby実装が作られています。JRuby, Rubinus, MagLev, mruby。これらの間で互換性が図られる一助となる。

IPA理事長の挨拶から,IPAがRubyのオープンソースコミュニティとの関係にとても注意を払っていることも感じられました。…IPAの一員として,そして,オープンソースの世界で長年頑張り続けている,田代さんのバランス感覚が働いているものと推察。

師匠が弟子の言語を国際規格化する

Ruby標準化検討WG委員長の中田育男先生の講演から。中田先生は筑波大時代の,私の恩師の一人。学生時代にコンパイラの作り方を教わりました。まつもとさんの大学院修士までの指導教員。日本のコンパイラ作りの草分け。1935年生まれ。78歳現役。立派です。弟子が作った言語を,師匠が世界標準化する。美しい。

中田先生は若き日,日立製作所で日本の商用計算機としては最初のコンパイラの1つであるFortranコンパイラHARPを作った。その弟子が,日本発・日本初の世界標準規格があるプログラミング言語が作った。

中田先生の講演を聴きながらこれを書いているのですが,中田先生のようなプログラミング言語の「プロ」が,まつもとさんという,また別の意味での「プロ」が作った言語の規格を見事にまとめている様子が感じ取れます。30年前に私が中田先生の講義を受けた頃から,変わらない姿。素晴らしい。

私が知る限り,こういう美しい師弟の連携は,世界でも聞いたことがないように思います。幸運な,美しい出来事です。

Rubyの事は,情報関係者の多くは知っているでしょう。しかし,一般社会ではほとんど知られていません。一般マスコミで話題にされているのは見た記憶がない。もっと日本社会一般に知ってもらうべきだと以前から思っています。世界に出ていった日本発のIT技術・文化があるのだよと。もっと自信を持とうと。それは個人レベルの好きな事,地道な研究や教育の中から,「自然に」生まれ出てくる。いわばボトムアップの力。トップダウンの力は,ボトムアップの力を育むように,邪魔をしないように働かせないといけない。今回のIPAや標準化のアクティビティは,そういうことを意識しながら,活動しているように感じ取れ,そこにも美しさを感じました。

パネルセッション

パネルセッションの様子です。左から田代秀一さん(司会),まつもとゆきひろさん,中田育男先生。一番右は日立ソリューションズでRubyを使った大型プロジェクトを指揮した正村勉さん。
R0013916-2